リズムで楽しく覚える

 本来「暗記」が目的ではないものであっても、一旦、方便としての暗記を経て、そのうちに体に染みつき、考えなくても行動できるレベルに達するということが、生きていくなかには多々ありますよね。また、意味を深く理解したり、奥義を極めたりするその入口は「形から入る」といった「修験者の守破離」というものがあります。

 こうした法則をソロバンの練習に応用した「九九の歌」や「繰り上げ・繰り下げの歌」があるのをご存じでしょうか?私も学校で九九を習う前からソロバン塾で「九九の歌」を諳んじていました。体に染みついているので、別の作業をしていても、別のことを考えていても、この歌は歌えます。「繰り上げ・繰り下げの歌」も同様です。「歌」と書きましたが厳密には「お経」のような「呪文」のような、要は「唱える言葉」なのですが...。

 先日、恩師のそれに別の言葉を追加した私のオリジナル「~の歌」を作りました。私の生徒に「5玉を使う足し算、引き算」を教えるためです。「1と4」「2と3」の関係つまり「5の補数」は理解しているのですが、「3+4」や「4+2」のように6、7、8、9になる足し算は、「5玉を入れて1玉を幾つか取る」といった具合に「取り引き」が生じますが、それが難しいと感じているようなのです。しばらくは時間を掛けて、理由、考え方、意味などなどを説明していたのですが、どうしても壁を越えることができません。どうしたら良いものか色々と考えていたとき、ふと、自分が昔やっていた「お経を唱える」という方法に気が付いたのです。早速「お経」をプリントに印刷して生徒に渡し、ホワイトボードにも書き出して、一緒に手拍子をたたきながらリズムに乗って唱えてみました。「1は5たして4とる、2は5たして3とる、3は5たして2とる、4は5たして1とる」。生徒も真似して手拍子とお経の唱和を行います。そうすると段々と慣れてきたので、お経を唱えながらソロバンで玉を弾いて見せると、「あ、6だ!」「あ、7だ!」と答えを口に出しているではありませんか。これには私自身も驚きでした。私は思わず「そうだよ~。5と1になるんだよ。5と2になるんだよ。」と欲張って叫んでしまう始末です(笑)

 最初は形だけの無味乾燥な修行に感じるかもしれません。でもきっと、あとからじんわり、意味も十分理解し、別のことをしていても唱えられるようになりますよ。